不登校オンライン学び図鑑

未来型オンライン学習モデルとしてのコンピテンシーベース学習:大学での適用と成功事例

Tags: コンピテンシーベース学習, オンライン教育, 大学教育, 教育モデル, 評価

未来型オンライン学習モデルとしてのコンピテンシーベース学習:大学での適用と成功事例

オンライン教育の進化に伴い、学習成果の捉え方や評価手法についても多様なアプローチが探求されています。その中でも、未来型の学習モデルとして近年注目を集めているのがコンピテンシーベース学習(Competency-Based Learning: CBL)です。CBLは、学習時間ではなく、学習者が特定の知識、スキル、態度(コンピテンシー)を習得したかどうかを基準に学習の進捗や成果を評価する教育アプローチです。大学教育において、オンライン環境でこのCBLを効果的に適用し、学生の深い学びや実践的な能力育成を図ることは、新たな教育の可能性を切り拓くものとして期待されています。

コンピテンシーベース学習(CBL)とは

伝統的な高等教育モデルの多くは、特定の期間(学期や年)における授業時間や履修単位数に基づいて学習進捗を管理する時間ベース(Time-Based)のアプローチを採用しています。これに対し、CBLは学習者が特定のコンピテンシーを習得することを学習の目的とします。コンピテンシーとは、単なる知識の羅列ではなく、実世界で特定の状況下において効果的に機能するために必要な、統合された知識、スキル、価値観、態度などの総体です。

CBLの基本的な考え方は以下の点に集約されます。

オンライン環境は、このようなCBLの特性を活かす上で有利な側面を多く持ち合わせています。柔軟な学習時間・場所の提供、多様なデジタルリソースの活用、個別の進捗管理ツールの利用などが可能です。

オンライン環境におけるCBLの設計原則

オンライン教育でCBLを効果的に導入するためには、慎重な設計が必要です。考慮すべき主要な原則は以下の通りです。

  1. コンピテンシーの定義と細分化:

    • プログラムやコースの教育目標に基づき、学生が習得すべき具体的なコンピテンシーを明確に定義します。
    • 各コンピテンシーは、測定可能な具体的な要素(学習成果)に細分化されるべきです。
    • 産業界や専門職能団体など、社会のニーズも考慮に入れることが望ましいです。
  2. 学習モジュールの設計:

    • コンピテンシーまたはその細分化された要素ごとに学習モジュールを設計します。
    • 各モジュールには、目標とするコンピテンシー、学習リソース(動画、テキスト、シミュレーションなど)、学習活動、評価課題が含まれます。
    • 学生が自身のペースで各モジュールを進められるように構造化します。
  3. 柔軟な学習パスウェイ:

    • 学生が既に持っている知識やスキルに応じて、特定のモジュールをスキップしたり、異なる順序で学習したりできるような柔軟性を持たせることがCBLの強みです。
    • プレイスメントテストや自己評価を活用して、学生に最適な学習パスを提案する仕組みが有効です。
  4. 多様な評価手法とフィードバック:

    • 単一の試験だけでなく、レポート、プレゼンテーション、プロジェクト、シミュレーション、ポートフォリオなど、コンピテンシーの実際の適用能力を測る多様な評価手法を取り入れます。
    • 評価は、習得度を判断するだけでなく、学生の理解度や課題を特定し、改善のための具体的なフィードバックを提供する機会と捉えます。
    • オンラインツールを活用し、タイムリーかつ継続的なフィードバックを提供できるシステムを構築します。ルーブリックの活用は、評価基準の明確化とフィードバックの質向上に不可欠です。
  5. 技術プラットフォームの活用:

    • 学習管理システム(LMS)や専用のCBLプラットフォームを活用し、学生の進捗状況、コンピテンシーの習得状況、フィードバックを一元管理できる仕組みを整えます。
    • ラーニングアナリティクスを活用し、学生の学習パターンや困難を早期に検出し、適切なサポートを提供することが重要です。

オンラインCBLの評価方法

オンライン環境におけるCBLの評価は、コンピテンシーの習得を正確かつ公正に測定することが中心となります。

評価の公正性を確保するため、評価者間の擦り合わせや、評価プロセスの定期的な見直しが重要です。

大学におけるオンラインCBLの適用事例(分析的視点)

特定の大学名を挙げることは避けますが、国内外の大学では、特にリカレント教育プログラム、特定の専門分野に特化した学位プログラム、あるいは一部の正規課程において、オンラインCBLの導入が進められています。これらの事例から学ぶべき点を分析します。

事例分析のポイント:

これらの事例から、オンラインCBLの成功には、明確なコンピテンシー定義、柔軟かつ構造化された学習設計、多様で信頼性の高い評価システム、そして教員・学生双方への適切なサポート体制が不可欠であることが示唆されます。特に、オンライン環境でのインタラクションを促進し、学生の孤立を防ぐためのコミュニティ設計や、ラーニングアナリティクスによる早期支援の仕組みが重要となります。

オンラインCBL導入における課題と展望

オンラインCBLの導入は、従来の教育システムからの大きな転換を伴うため、いくつかの課題も存在します。

これらの課題に対し、他大学との連携によるFDプログラムの共同開発、学生サポートサービスの拡充、モジュール型システムの段階的導入、ブロックチェーン技術を活用したコンピテンシー証明の検討などが、今後の解決策として考えられます。

オンラインCBLは、高等教育が社会の急速な変化に対応し、学生が卒業後も継続的に学び、変化に対応できる能力を育成するための有効なモデルとなり得ます。オンライン環境の利点を最大限に活かしたCBLの設計と実践は、大学教育の未来を考える上で重要な視点となるでしょう。今後の技術発展や教育実践の蓄積により、その可能性はさらに広がると期待されます。